テレビの台本を書いていた

テレビの台本を書いていたことがあるので、

こうやってブログを書いていると、その時のことをよく思い出す。




テレビ番組というのは、簡単にいってしまえば、

ディレクターが作ったものを、出演者が演じる、というものだ。



「どういうものを作るべきなのか」という大枠を、プロデューサー

が決め、ディレクターはその枠の中で、いろんな企画を考える。




番組のスタイルによって様々ではあるが、

ディレクターという仕事は、主に6つの構成で成り立っている。




1)「ネタを考える」

2)「出演者を決める」

3)「ロケをする」

4)「編集をする」

5)「台本原稿を書く」





一番最初の「ネタを考える」、これが最も大変な作業だ。



テレビのディレクターだけでなく、メディアの制作業務は、

雑誌であれ、ラジオであれ、すべてこの作業から始まる。

苦心しながらあれこれとネタを出し、プロデューサーに

提案し、そこで「よしやってみろ!」と言われてホッとするか、

もしくは、「つまんないから却下!」と言われて落胆するか。

ディレクターという仕事は、これの繰り返しだ。

ヒドイ場合は、締め切りまでにネタが決まらずに、仕事場から

脱走してしまったり、ネタを生めない苦しみのあまり、

胃に穴が空いて入院してしまった仲間もいた。怖いものだ。





「出演者を決める」という仕事は、比較的ラクで、面白い。



考案したネタを、誰にやらせるか、つまり"キャスティング"だ。

ここがうまくハマれば、ネタが数倍に面白くなることもあるし、

ハズしてしまえば、ネタが台無しになることもある。

タレントさん側の立場からしてみれば、

このキャスティングの段階で、是が非でもリストに入りたい。

だから、ディレクターやプロデューサーとのコミュニケーションが

欠かせないのだが、タレントとして優秀なものがあれば、そんな

努力は要らずに、あちこちのディレクターから声をかけられる。

今のテレビタレントだったら、青木さやか、なんかは、おそらく

各局のディレクターは、喉から手が出るほど使いたいだろう。





「ロケをする」という段階へ来ると、現場の力量が問われてくる。



出演者、カメラマン、音声、照明、この4人のスタッフの力量だ。

お互いのウマが合わないとやっていけない部分もあるので、

出演者を除いた3人は、グループで活動している場合が多い。

音楽バンドで言うなら、

出演者がボーカルで、あとの3人がバックバンド、みたいなものだ。

テレビの制作に携わったことのある人間は、家でテレビを見るとき、

この"現場の力量"というのが、画面を通して自然に見える。

とんねるずの番組で、今はあまり見かけないが、野球をする

コーナーが人気を博していたことがあった。あの現場を作っていた

カメラマン、音声、の技量は、間違いなく、当時日本一だった。





「編集をする」、この仕事は、ディレクターの技量が最も表れる。



いわゆる"VTR"を作る作業、ということになるのだが、

映像のつなぎのテンポ、音を当てるタイミング、ナレーションの

盛り上げ方など、あらゆるバランスが必要だ。

おそらく、オーケストラの指揮者の感覚に近いと思われる。

しかも、この編集の良し悪しというものは、テレビ視聴者にも

ストレートに伝わるものだ。

K-1やプライドやボクシングなど、格闘系のスポーツがテレビで

放映されるとき、TBSやテレビ朝日が放映するより、

フジテレビか日本テレビが放映するほうが、断然おもしろい。

それぞれの局に、格闘番組の担当チームがあるのだろうが、

これがまさに、その編集能力の差というものが

顕著に表れてしまっている例だろう。





「台本を書く」というのは、言葉の通り、作家的な仕事だ。



主に、ネタのVTRに当てこむ"ナレーション台本"と、

VTRが終わってスタジオに戻ったときの"トーク台本"の

二種類に分かれる。

ナレーション台本は、VTRの映像や音のテンポ、に

しっかりと合わせて書かなければいけないし、

トーク台本は、司会者を含めたスタジオ出演者の、

それぞれの個性や立ち位置に合わせた内容を

考えないといけない。

出川哲郎に知的なことをしゃべらせるような台本を

書くと、おそらくマネージャーさんから拒否されるし、

中尾彬に、椅子から転げ落ちてもらうシーンを台本に

書いていたりなどしたら、二度と出演してもらえない。

そういう意味で、磯野貴理子などは、スタジオトーク

立ち回りにオールマイティなので、ディレクターとして

実に台本を書きやすいタレントといえる。



タレントの能力がディレクターより高い場合、この台本が

役に立たない場合もある。

自分が以前、プロデューサーを務めていた番組で、

さま〜ずの2人を使ったことがあるのだが、

番組ディレクターの作った台本が、ロケの現場で

彼らのアドリブによって、大幅に書き換えられたことが

あった。仕上がってみると、元の台本より面白かった。



ちなみに、テレビの台本には、文量の制限がある。

スタジオ時間が40秒ならば、その尺の中にしっかりと

収めなければいけないし、VTRのナレーションともなると、

秒よりも更に小さな「フレーム」という単位まで加わる。

30フレームで1秒、という数え方なのだが、例えば、

『すると、次の瞬間!』のセリフが、2秒25フレームだとする。

しかし、そのセリフを当てる映像は、2秒10フレームしかない。

15フレームを縮めるために、『と、次の瞬間!』に書き直す。

そういう作業を、細かく行っていくのだ。

気が遠くなりそうな作業だが、

これが慣れてくると、このセリフはこれぐらいの尺だろう、と

自然に身についていくものなのだ。





自分が、このテレビの仕事をやっていたことを思い出すに、

ディレクターとしては、まあ優秀なほうだったと思う。



まず、ネタで困ったことはなかった。

ネタで困らない、ということは、プロデューサーにダメ出しを

されて、他のネタを考え続ける、という時間がないわけで、

その分、別の作業に時間を割くことができた。



ロケをするにも、優秀なスタッフに恵まれていた。



編集、というのがちょっと辛かった。なぜなら、

自分は夜型ではなく、朝型だったからだ。

編集スタッフというのは、だいたい夜型の人間が多く、

朝から編集したいといっても、誰も手を挙げてくれないので、

眠い目をこすりながら、夜通し編集していたことを思い出す。




台本を書く、という仕事が、一番思い出に残っている。

自分は教養がなかったので、台本に誤字や脱字が多く、

てにおは、の間違いだらけだった。これで随分と苦労した。




ある時、司会者のアナウンサーに、



「あなたの担当する放送の日は、他の日より20分ほど

早く、私はスタジオ入りしています。ご存知でしたか?」



と言われた。台本の手直しをするためだ、という。



これを聞いて、その翌日から、台本を完璧に書けるよう

必死で努力した。



それまでは勢いだけで書いていたのだが、一度書いた

台本を何回も読み直し、間違いを見つけては修正し、

文章力に強い仲間のディレクターに校正を頼んだ。



それから1ヶ月ほどして、その司会者は、ようやく

他の日と同じ時間に、スタジオ入りするようになった。





このブログは、

あの頃に必死で培った文章力を、少しでも衰えさせない

ために始めたようなものだ。



毎朝1時間だけ時間をとってブログを書く、と決めていて、

相変わらずネタに困ることだけは無さそうなのだが、

あの頃と同じように、書いた文章をもう一度読み直し、

間違いを見つけて修正する、という癖が、未だに抜けない。





END