号泣するタイガー・ウッズを

号泣するタイガー・ウッズを見ながら、夜中にテレビの前で、

嗚咽を上げて泣いてしまった。




自分はゴルフが下手くそで、なかなか上達の見込みが無く、

最近では自分の才能のアタマ打ちを感じて、

半ば諦めを感じているところだ。



せめてテレビのゴルフ中継でも見ていれば

少しは上手くなるかもしれない、と思い、

チャンネルを回してゴルフをやっていたら、

マチュアゴルフや女子ゴルフであろうが、とりあえず

なんとなく見ることにしている。




昨日の夜も、そんな軽い気持ちで、

全英オープン最終日の中継を観ていた。




ところが、このテレビ中継を見て、

素晴らしいシーンに出会ってしまったのだ。




多くの名プレーヤー達の激闘の末、ウッズが優勝した。



彼は、過去の全ての優勝の瞬間を、

派手なガッツポーズと満面の笑みで締めくくってきた。

おそらくテレビ中継を見ている全てのゴルフファンが、

今回の大会でも、そのシーンを待ち望んでいた。



だが、彼は、その期待に応えなかった。




幼い頃から二人三脚で歩いてきた最愛の父が、

5月に、この世を去った。



彼に、ゴルフのすべてを教えてくれた父は、

彼にとって一番の宝物だった。



これまでも、試合の最中に調子が狂ってきたとき、

彼は携帯電話を取り出し、

テレビの中継を通して自分を見てくれている父親に、

「僕、どこかおかしい?」とアドバイスを求めていたという。



そのたびに父は、適切なアドバイスを授けた。

そして最後に必ず、愛する息子へ励ましと勇気の言葉を伝えた。



最愛の父を失った翌月、ウッズは、

プロ入り初の、メジャー大会予選落ちを経験。

失ったものの大きさは、彼に大いなる試練を与えた。



しかし今回、彼は見事にその試練を乗り越え、

精神の崖淵から這い上がった。




最終18番ホール。ボールがカップに収まった瞬間、

大勢の観客の歓呼の声を背に、ウッズは、

ファンが期待していたいつもの笑顔を出さず、

顔を涙でくずしながら、キャディーを抱きしめ、

そのまましばらく動かなかった。



そして、近づいてきた妻の肩に顔をうずめた。



「今日のプレーを、父に見せたかった。」

そう妻に言ったという。



高まる気持ちを抑え切れなかったのか、

抑えようとしなかったのか、

彼は妻を強く引き寄せ、激しく号泣した。




抱き締めあう2人の姿が、大勢の総立ちの観客を背景に、

まるで、一枚の絵画のように輝いていた。




・・・・こんなに痺れるシーンを、久しぶりに見た気がする。




何より、本当に久しぶりに、

"嗚咽を上げて" 泣いてしまう自分に出会えたのだ。



男は泣くもんじゃない、まあ、それはもっともなことだと思うが、

感情というものは時に抑え難いものだ。

そして、心の底まで響くようなシーンに出くわしたとき、自分は

ただ泣くのではなく、嗚咽を上げて泣いてしまうのだと知っている。





まあ、ここまで書いたことだし、

感動をくれたウッズへの感謝の気持ちも込めて、

まあかなり恥ずかしいことだが、

「これまで自分が嗚咽を上げて泣いたシーン」

を振り返ってみることにする。





18歳の頃にテレビで観た、『北の国から '87初恋』。




田中邦衛の演じる五郎の、息子・純への愛を描くシーン。

純は、初恋のれいちゃんと、東京の定時制高校へ通うことを

夢見るが、彼女の家が借金で破産して夜逃げしてしまい、

純はひとり東京へ旅立つことになる。

初めて富良野を離れる日。

反対する父を振り切って旅立つ自分の心と、

故郷への想いが混在していた。

そこへ、父・五郎が駆けつけてくる。

おもむろに純の手をとり、握りしめた餞別を手渡す。

「元気でな、元気でな!」見送る父の声を背に、

純がその手を開いてみると、そこには、

富良野の大地の泥のついた1万円札があった。




ここ。かなりキタ。このシーン。



赤ん坊の頃に毎日号泣していたことを数えなければ、

このシーンが、自分が生まれて初めて嗚咽を上げて

号泣した瞬間だ。





22歳の頃、再放送で見たテレビドラマ

『ひとつ屋根の下』の、第12回。



両親のいない5人兄弟が、ひとつ屋根の下に集う話。

ひたむきに兄や妹の面倒をみる長女・小雪酒井法子)は、

ある日、自分だけが兄弟と血がつながっていないことを

知ってしまい、ひとり家を出る。

兄弟たちを深く愛していたからこそ、

そのショックは大きかった。

小雪を探し回る四人の兄弟たち。

馬鹿で一本気の長男・達也(江口洋介)は、

我を忘れて妹を追い求める。

ようやく発見するが、小雪はひどく疲れており、

貧血で倒れてしまう。

すぐに病院に運んで輸血をする、と言い出す達也。

大げさだよ、と笑う小雪・・・・・・次に小雪が目覚めたときは、

病院のベッドの上だった。

隣を向いてみると、同じようにベッドに横たわる兄がいる。

「お前が家出なんて馬鹿なことをするから、

俺が輸血しなきゃいけなくなったじゃないか。でも、

これで俺達はもう、血のつながった兄弟だ。

だからもう、家出なんてするのはやめろよ・・・。」

輸血をすれば血がつながる、そんな子供のようなことを

本気で考えてくれた兄の横顔を見ながら、

小雪の眼から大粒の涙が溢れ出す。

そして、名曲「サボテンの花」のイントロが流れ出す・・・。




はい、ココ! この瞬間、一気に号泣。そして嗚咽。



ちなみに、3年後の25歳のときに、レンタルビデオ店

このドラマを借りた。果たして同じシーンでもう一度泣けるのか、

と試してみたところ、3年前より泣けた。





31歳の時に観た、映画『壬生義士伝』のワンシーン。



時は江戸末期、主人公は心優しき侍、貫一郎(中井貴一)。

幼い頃から盛岡の貧しい家に生まれたものの、

剣と筆をよく学び、人格正しく、

周囲からも認められる存在となる。

一目惚れの女性との恋、そして結婚、

将来が楽しみな長男と、まだ幼く愛らしい娘の、

2人の子供に恵まれる。

幸せで平和な日々。だが、そこに盛岡の大飢饉が訪れる。

禄高の高い武士の家ならともかく、

貫一郎の家は、百姓も同然の貧しい暮らし。

武士の面子を保つための生活もできず、

毎日の食事すら窮地の状況で、

しかも愛する妻のお腹には三人目の子が宿っている。

このままでは一家全員が生きていけない。

貫一郎は、家を出て脱藩し、自分の剣を頼りに

稼ぎ口を探す旅に出ることを決意する。

が、当時、脱藩というのは武士にとって最も重い罪で、

二度と国へ戻ることは許されなかった。

だが、貫一郎はその運命を受け入れた。

連れ添った妻との今生の別れ。

未練が残ってはいけないと、愛する息子と娘には

顔を合わせることなく、月の上がった夜に、ひっそりと、

しかし強い足取りで家を出る。

国境の橋を渡る貫一郎。

ここを越えれば、二度と家族には会えない。

意を決して橋を渡る父の背中に、突然、

息子の声が聞こえてくる。立ち止まる貫一郎。

息子よ、来てはならぬ!

・・・うしろを振り返らずにそう言う父に、息子は、

幼い妹・みつの手を引きながら父に近づき、言うのだ。

父上、このようなことをして申し訳ありません。ですが、

みつが目覚めたときに父上がおられぬのは可愛そうです。

父上、どうかもう一度だけ、みつを抱いてやって下さい。

振り返る貫一郎。

たどたどしい足取りで父に向かって歩いていくみつ。

そっと父に抱き上げられる。

まだ言葉もままならない程に幼いみつは、その小さな手で

貫一郎の顔を触りながら、何度も何度も名前を呼ぶのだ。

「とと、とと、とと。」

貫一郎は、心の奥に固く閉じ込めたはずの想いを我慢できず、

男泣きに泣くのだ。




あぁぁー、ココ!もう駄目。思い出しただけでもう駄目ぇ・・・。



そういえばあの時、激しい涙と嗚咽で、過呼吸になって

死にそうな目に会った。



この映画、上に挙げたシーンだけじゃなく、あと一箇所、

素晴らしいシーンがある。ここも、号泣すること間違いない。





最後に。

これまでに何度も、観よう観ようと思いながら、

ようやく今年の春に観ることができた。



映画『ニュー・シネマ・パラダイス』のエンディング。



・・・この有名な映画の、最後のシーンについては、

もはや語るべき必要はないだろう。



嗚咽を上げてまで泣くか?と知り合いから

首をひねられたときにはムッとしたが、それは人それぞれだ。

自分は、この脚本手法の映画に、とにかく弱いのだ。



同手法の映画としては『ラスト・エンペラー』も秀逸だったが、

ニュー・シネマ・パラダイス』には、梯子を架けても届かない。






こうやって挙げてみると、

これまでの自分の人生における「嗚咽体験」は、

すべて映画とドラマによるものばかりだったようだ。




ということは、昨日のゴルフ中継の、

タイガー・ウッズの涙の優勝シーン、あれが、

人生で初めて、生で体験した嗚咽なのだ。



何ということ!軽い気持ちでチャンネルを回していて、

たまたまやっていたゴルフの中継に手を止めたことが、

生涯で最初の出来事に巡り合う運命を生んでくれたのだ。




こうなると、ゴルフという偉大なスポーツの存在と、

そのゴルフの道に自分を誘ってくれた友人に

深く感謝せねばなるまい。




そして何より、ありがとう、ウッズ。

君がいてくれる限り、僕はゴルフを諦めない。




END