「口内調味」という言葉を

「口内調味」という言葉を、先日、初めて知った。

コウナイチョウミ、と読むのだが、言葉の通り、

"口の中で味を調節する" という意味だ。




鯖の味噌漬けを口にすると、必ずご飯が欲しくなる。

これは、口に入れる、鯖、味噌、ご飯、の量を調整し

自分がもっとも美味しいと思える状態を、口の中に

作り出そうという欲求、と言える。

これが、口内調味だ。




そういえば、"三角食べ"というものを

幼い頃に教わった。

ご飯、おかず、汁物、この三つを順々に食べる、

どれもバランスよく食べよう、という意味だった。



ロイヤルホストの洋風定食、とやらを初めて食べた

ときに、サラダ、スープ、と、一皿ずつ出てくるので、

「これじゃ三角食べが出来ないよぉ・・・」と、

困ってしまった記憶がある。



いま思うに、この三角食べが、口内調味を身に付ける

源になったのかもしれない。





ちなみに、この口内調味、実は、世界の民族のうちで

日本民族だけにみられる習性、なのだそうだ。





自分もそうだが、タバコを吸う日本人は、コーヒーを好み、

紅茶を好まない。一緒に楽しむと不味い、と感じるからだ。



しかし、紅茶の本場・イギリスは、愛煙家率が高い。



自分の友人のカナダ人など、この日本人のタバコと紅茶の

関係を話したところ、まったく意味が解らない、といった表情

をしていた。彼と会うのはカフェが多いのだが、彼はいつも、

右手でタバコを吸いながら、左手のスプーンでフルーツパフェ

を口に運んでうまそうに食べる。明らかに口内調味を知らない。




江戸の末期、外国から学者や研究者が日本へ訪れ、

日本人の研究を行った。食生活に関する研究資料もある。

その中で、もっとも彼らが驚いていたのは、

「動物性タンパク質を摂取するのに、魚しか食べない」

という点だった。




まあ、肉が全くなかったわけではなく、医者が病人に滋養を

つけさせるために猪や鹿を食べさせる例があり、「薬喰い」と

称されていたようだが、そういった病人や弱者はともかく、

サムライやスモウレスラーといった屈強な人間達が、

揃って肉を食べないのである。これは驚きだったろう。



しかし、調査を進めてみると、魚を食べると同時に、

味噌、豆腐といった植物性タンパク質を豊富に摂取し、

多くの野菜や穀類と同時に食することで、日本人は

独特の栄養バランスを保っている、ということが解った。




この背景にも、口内調味、という習性があったことが

伺われるが、その頃の資料には口内調味は出てこない。




さらに、欧米人は、乳酸菌を摂るのに、動物の乳や

それを加工したヨーグルトなどを食していたが、

日本人は、毎日の食卓に並ぶ、わずかな漬物だけで

豊富な乳酸菌を摂っていた。



ちなみに、明治ブルガリアヨーグルトの500gパックを

まるごと全部食べて、ようやく得られる乳酸菌の量は、

タクアン一枚で得られる乳酸菌の量に等しいそうだ。




だったら、欧米人もタクアンを食べればよい、と思って

しまうが、彼らにはタクアンの美味しさが解らない。



日本人はタクアンの美味しさを知っている。なぜなら、

「タクアンとご飯を一緒に食べると旨い」、ということを

知っているからだ。





昨日、友人達とロシア料理を食べに行ったので、

さっそく、この口内調味を試してみた。



・・・・が、

ニシンのオイル漬けと、ボルシチと、黒パンと、

グルジア風カツレツは、全く調和してくれなかった。




ニッポンの口内調味、まさに恐るべし、である。




END