最近の仮面ライダーは、

最近の仮面ライダーは、大人の自分が観ても楽しめる。




仮面ライダーブレイド仮面ライダー響、仮面ライダーカブト

という直近3シリーズを観てきたのだが、とにかく面白い。



アクションシーンは勿論のこと、ミステリアスな映像描写、

レベルの高い演技、謎に謎を重ねた奥深いストーリー、

どこをとっても、自分が子供の頃に見ていた仮面ライダー

とは、全く作品としてのレベルが違う。




だが、違っているのは、作品のレベルだけではない。




仮面ライダーは正義の味方で、悪を倒すヒーローだ、

という認識が、もうすでに時代遅れなのだ。



現在放映されている仮面ライダーカブトには、

主役のカブトの他に、5人の仮面ライダーが登場し、

それぞれが複雑な人間関係をもっていて、みんな仲が

それほど良くなく、自己中心的に行動する。



一応、悪敵のようなものもいて、それらと戦うのだが、

「なぜ俺は、こいつらを倒さなければいけないのか?」

「そもそも、なんで俺は仮面ライダーなんだ?」

といった妙な悩みを抱えていたりする。



逆に、悪敵のほうにも、変に人間染みたヤツがいて、

滅茶苦茶に悪さを働きながらも、その行動の正当性を

論理的に説明してしまう。



正義のヒーローは、正義って何だろう?と苦悩し、

悪の権化にも、れっきとした言い分がある。



要するに、"赤胴鈴之助"から始まった日本の子供向け

テレビの「勧善懲悪」の世界を、最近の仮面ライダー

まったく裏切ってしまっているのだ。





自分の子供の頃は、ウルトラマンをはじめとした

ヒーロー達が、ブラウン管の中を所狭しと暴れ回り、

悪人どもをバッタバッタとなぎ倒していた。



ヒーローに憧れ、ヒーローになりたいと願っていた。

ヒーローは、悪いことをするヤツを、絶対に許さない。

だから自分も悪いことはしない。悪いことをするヤツは

退治されるべきものなのだ。




実は、この状態、「武士道精神」に非常に似ている。




当時、武士というのは、強く、勇ましく、誇り高く、周囲から

尊敬される存在だった。"花は桜木、人は武士"という言葉

の示す通り、日本社会におけるヒーロー的存在だったのだ。

その武士の生き方を教えるのが、武士道である。



例えば、「女性を叩いては駄目です」という教えがある。



なぜ男性はよくて、女性は駄目なのか?などと考えて

しまいそうだが、そこに理屈は無い。

武士たる者は、女性を叩かないのだ。

女性を叩くのは、恥ずべき行為なのだ。

子供達にとって、理屈は要らない。憧れの武士に

なりきろうとする、その潔癖な精神が、決して女性を

叩かせない。



この"武士"の存在が、"ウルトラマン"である。

武士も、ウルトラマンも、赤胴鈴之助も、女性を

叩いたりしないし、人の物を盗んだりしないのだ。

悪いことはしちゃいけない。理屈は要らないのだ。




この精神は、幼稚園や小学校が教えるよりも、

テレビのヒーローが教えるほうが早いのだ。




だが、昭和60年代から、子供向けテレビ番組の

"勧善懲悪"の教えが、だんだん薄らいできた。




ガンダムという有名なアニメ番組があり、これこそが

勧善懲悪の図をひっくり返してしまった典型的な作品

なのだが、とにかくもう、登場人物がバタバタと戦争で

死んでいく。

このことだけでも子供の教育に悪いのだが、

その戦争のさなかで、悪の軍団の副リーダーが、



戦争によって人口がずいぶんと減りましたが、これは

都合がよいことです。これから先は、無能な人間は

残さずに、有能な人間だけを残しましょう。



といった意味のセリフを言うのだ。



今考えると、ヒューマニズムや反マキャベリズムを

題材に、人間愛的なものを描いた大人向けのアニメ

なのだが、そういう製作者の意図は、テレビの前の

幼い子供達には伝わらない。



戦争ってそんなに悪いものじゃないんだ、

悪いことをするにも、理屈があるのね、

というように、表面的なものだけを捉えた子供が

テレビの前に大勢いたはずだ。




こういったアニメを見て、人間が曲がってしまい

社会に順応できなくなった子供達が、そのまま大人

になって、ニートになったり、引きこもりになったり

したとも考えられる。はなはだ危険なことだ。



自分は、そういったアニメや漫画を見ることなく、

"ハウスの世界名作劇場"と"ドラエもん"だけを愛して

きたので、幸い曲がった人間にならずに済んだが。




このように、最近の子供向けテレビ番組は、大人に

とって面白いものはあるが、子供の教育にとって

適切だといえるものがほとんど無い。





しかし、そんな中で、ひとつだけ、勧善懲悪のテーマ

を頑なに守り続けている作品がある。





かの"ゴレンジャー"から数えて、今年で30作目を

迎える 「戦隊ヒーローシリーズ」 だ。




テレビ朝日系、日曜あさ7時30分から毎週放映

されているこのテレビシリーズは、

"5人の正義のヒーローが、悪の軍団と戦う"

という勧善懲悪スタイルを、頑なに守り続けている。



いま放映されている "轟轟戦隊ボウケンジャー" は、

5人のヒーローが、世界中に隠されている秘宝を

探し出し、これを悪の軍団に利用されないように

保管する、というストーリーだ。

悪の軍団は、徹底的に悪い奴らで、対するヒーロー

も皆かっこよく、必ず敵を倒して、毎回ハッピー

エンドで終わる。観ていて、非常に痛快だ。



ちなみに、宝を探すという行為は、"ミッション"と

名づけられ、5人のヒーローは、このミッションを

完了するために行動する。

ときに、個人的な感情やわがままで、仲間意識

が揺らぐシーンもあるのだが、あくまでミッション

という目的を達成するために結束している。

このあたりの設定も、現代社会における若者の

生き方やスタイルを反映しているようで面白い。




このボウケンジャーの、ひとつ前のシリーズは

"魔法戦隊マジレンジャー"という作品だったが、

こちらは、5人の兄弟が悪の軍団と戦うストーリー。

親を亡くした思春期の兄弟達は、ときに喧嘩をして

バラバラになりそうになるのだが、最後は必ず

熱い兄弟愛で結束し、試練を乗り越えるのだ。



実に美しい話で、最終回近くに、死んだはずの

父さんと母さんが出てきたあたりでは、不覚にも

涙を流してしまった。それほどピュアな作品なのだ。





ハウスの世界名作劇場が観れなくなった今、

自分は、この戦隊ヒーローシリーズを

こよなく愛している。



毎週日曜の朝は、この放映を見るのが楽しみで、

セットした目覚ましが鳴る前に起きてしまうほどだ。



大好きなこの番組が、スポンサーのバンダイの倒産

で放映終了してしまうことのないよう、バンダイが発売

する合体ロボはかならず買う。ささやかな売上貢献だ。

しかも、買った合体ロボを会社の机に飾り、仲間達が

少しでも戦隊ヒーローに興味を持つよう期待している。



一部の仲間は、これを心なくあざ笑い、組み立ててある

合体ロボをバラバラにしたり、犬に与えて遊んだりして

いる。悲しいことだ。だが、これでめげてはいけない。




この戦隊ヒーローシリーズが放映され続ける限り、

日本人から"勧善懲悪"の芽が無くなることはない

と、固く信じているからだ。





END