”矜持”という言葉がある。

"矜持"という言葉がある。



"矜持"という言葉がある。きょうじ、と読む。




よく仕事の休憩の合間に、「銀河英雄伝説」という

ビデオアニメを見ることが多いのだが、その中で、

その矜持という言葉が出てきた。




銀河英雄伝説」は、

日本最高のスペースオペラであり、

日本アニメの金字塔とも呼べる作品だ。




その中に、ロイエンタールなる人物が登場する。



彼は、皇帝の信頼が最も厚い、有能な武将だ。

しかし、悪質な不平分子の策略によって、

「皇帝に叛意がある」との風聞を立てられる。

一度は皇帝との間で和議をもったが、

その後も周到な策略が報じられ、

彼と皇帝との信頼関係に、次第に陰りが見えてくる。

そして皇帝は、彼からの釈明を求めることにする。



ロイエンタールは深く悩む。

皇帝への忠節に偽りなどない。

あくまで着せられた濡れ衣なのだ。

武人として戦装束を着て戦場で倒れる覚悟はあるが、

被告人として濡れ衣を着ることになど耐えられない。

多くの戦友や部下達が、

ここは忍の一文字で、皇帝に釈明をするよう、彼に進言する。



だが、彼はこう答える。

「俺の武人としての矜持が、それを許さない」

そして、彼は武人として、華々しく散っていく。




そういえば、この言葉に、

前にも出会っていたことを思い出した。



司馬遼太郎作「燃えよ剣」は、氏の執筆の中でも

とくに秀逸な作品だ。

同時に、昭和46年に放映された、テレビ時代劇

燃えよ剣」は、オリジナル脚本、演出ともに、

原作に劣らぬ作品だ。

この中で、その"矜持"が登場した。



薩長との開戦の火蓋が切られ、

新撰組伏見街道に陣を張る。

しかし、こちらは敵の陽動で、敵本隊は、

味方の本丸である、京・二条城に攻めあがった。



副長・土方歳三は、

いますぐに全隊で京に引き返すべきだ、

と言う。



しかし、夜通しの行軍で隊士は疲れ果てていて、

いまから京に戻っても間に合わない、しかも、

二条城の守りは固く、敗れることはまず無い、

敵の陽動に掛ったことは無念だが、もう仕方の

ないことだ、と、局長の近藤が諌める。



しかし土方は、顔を紅潮させてこう答える。

「このような状態、俺の矜持が許さん!」




2つの作品のどちらのシーンとも、

あまり有名なシーンでもなければ、大事なセリフ、

といった感じでもないのだが、

なんとなく「矜持」という言葉だけが

頭に強く残っていた。



どういう意味なのか調べてみると、予想通り、

「プライド」の意味に近いようだ。

しかし、紐解いていくと、プライドという言葉に

まっすぐ直訳すべき言葉ではないことが分かった。



矜持、とは、

『自分の能力を優れたものとして誇る気持ち』

との意味であるらしい。



プライドという言葉は、本来"自尊心"の意だ。

「○○家の長男としてのプライド」「男としてのプライド」

などと、当人の能力とは関係のない部分、いわば

誇りや人格に対して用いられる言葉だ。



しかし、

「選手としてのプライド」「ラーメン屋としてのプライド」

といったように、プライドという言葉は、人の能力を

主軸として使う場合もある。

こちらは、まさに矜持の意に当てはまるわけだ。




まあ、自尊心と矜持の違い、などというのは

あまり気にすることはないのだろうが、

せっかくこのような日本語があるのだから、

わざわざ外来語を使わなくてもいい気がしてきた。



何より、"プライド"と言うよりも、

"矜持"と言ったほうが、言葉の響きが明らかに

格好いいではないか。




サラリーマン時代を経たおかげで、

コミュニケーション、プライオリティ、アウトプット、などと

自分の口から横文字が出てくることが多くなっている。

この「矜持」という言葉をきっかけに、

自分の中の横文字の辞書を、これから少しずつ

書き換えていこうと、頭の中にインプットしよう。



あれ?インプットって日本語で言うと何だろう?




END