”ハンカチ王子”がテレビを

"ハンカチ王子"がテレビを席巻しているが、

王子こと早実の斎藤投手が使用していた

あの青いハンカチ、デパートで飛ぶように売れている

らしい。





実際に斎藤投手が使ったハンカチのメーカーは

すでに製造を中止しているので、メーカーは違えど

小さく青いハンカチであれば買う、という女性が多く、

軒並み売れ切れているようだ。




なんとも微笑ましいニュースだ、と思う。





しかし同時に、デパートの「商品バイヤー」の存在を

思わずにはいられない。






以前、食品メーカーに勤めていたことがあるので、

デパートやスーパーの商品バイヤー達と交流があった。




バイヤーというのは、それぞれ担当する"棚"を持つ。

棚というのは、それぞれのアイテムごとの"コーナー"を指す。




例えば、レトルトカレーのコーナー(棚)を担当する

レトルトカレーバイヤーという立場の人がいる。



ハウス食品ヱスビー食品など、レトルトカレー

メーカーは、こぞってこのレトルトカレーバイヤーの

元を訪れ、「うちの新商品を棚に並べてください」

と営業して回るわけだ。



バイヤーは、それらのメーカーの商品を選りすぐり、

自分の担当する棚に並べて販売する。



当然、売上予算というものがあり、

例えばレトルトカレーのコーナーの月の売上予算が

100万円とし、棚に配置できる商品ブランドの数が

20種類だとする。



そうすると、1種類のカレーにつき、月に5万円を

売り上げなければいけない。



ひとつのカレーが平均250円だとして、

20種類のカレーがそれぞれ一日6.6袋売れれば

予算達成、というわけである。



バイヤーにしてみれば、あるメーカーのカレーを

棚に置くとき、その基準は、一日で6.6個が売れるか、

ということになる。



バーモントカレーやジャワカレーといった昔からの強い

ブランドカレーは一日で10個以上を売り上げるだろうが、

有名ブランドでないものや、新発売商品になると、

その数値はなかなか読めない。



そのカレーをバイヤー自身が食べてみて、

「これは美味い!」と思って採用することもあるが、

逆に、たいして美味くないのだが、テレビCMをたくさん

放映する予定のある商品は、まず間違いなく売れる

だろう、ということで採用することもある。




だが、美味しさのうんぬんや、コマーシャル効果などと

関係のない、「流行」に賭けるときもある。




"お菓子のハバネロが流行っている"という時期に、

"ハバネロカレー"が発売されることになれば、

これは流行に乗るだろう、ということで採用する。




また、ごく短期間、つまりスポット的な流行もある。




バイヤーが自宅でテレビを観ていて、

「次回のあるある大辞典は"野菜カレー特集"です」

などと耳にすると、即座にメーカー各社に電話を入れ、

野菜カレーをズラッと並べておいたりする。



翌週のあるある大辞典の放映後に、それらの野菜

カレーが飛ぶように売れることを見越してのことだ。



無論、メーカー側もあるある大辞典の情報を先に

つかんでおき、「来週のあるあるで放映されるので

うちの野菜カレーを棚に並べてください」と営業を

入れることもある。



まあ実際、そこまで営業力のある者は、メーカーに

そうそういるものでもなく、大抵の場合、バイヤーの

ほうがメーカーの営業マンより上手だ。




特に大手のデパートやスーパーになると、

メーカーの営業マンを鼻であしらうほど食品に詳しい

名バイヤーがいて、さまざまな情報を持っており、

よく新聞を読み、経済誌を読み、テレビを観ているものだ。






話は戻るが、青いハンカチ、である。




もし自分が、デパートやスーパーのハンカチコーナーの

商品バイヤーで、今年の高校野球のテレビ中継を見て、

斎藤投手が青いハンカチを取り出して汗をぬぐい、

それを見た女性たちが、かわいい!と声を上げたとき。



「これだ!明日から青いハンカチが売れるぞ!」



と立ち上がり、ハンカチメーカーに電話をかけまくり、

自分の担当するハンカチコーナーに

"小さい青いハンカチ特設コーナー"を設置し、

来たるべき特需に対応することができたろうか。





おそらく、流行に鈍感な自分にはムリだったと思うが、



高島屋イトーヨーカドーの名バイヤーたちは、

試合中継を見てすぐに、素早く対応したことと思う。




そして、地方のデパートやスーパーのバイヤーたちは、

青いハンカチのニュースを観てから腰を上げ、

慌ててハンカチメーカーに電話するのだが、

「すいません、もう○○デパートに買い占められました」

と返され、ガックリ肩を落とすのだろう。






青いハンカチが売れている、というニュースの舞台裏で

こういった様々なドラマが演じられているのだろう、と

思うと、さらに微笑ましさが増すものだ。





END